INI・許豊凡「小学生時代にはゲームの世界みたいな小説を書いた」読みも書きも楽しむ許が、書店で選んだ今の気分の3冊は?【インタビュー】

ダ・ヴィンチ 今月号のコンテンツから

公開日:2025/6/25

※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2025年7月号からの転載です。

選んだ3冊を通して、内面に迫る 許 豊凡(INI)と書店めぐり

グローバルボーイズグループ「INI」の中でも、読書家として知られる許豊凡(シュウ・フェンファン)さん。そんな彼が書店を訪れ、今の気分で本を選んだら……? 気になる3冊をセレクトしてもらいつつ、読むこと、そして書くことについて語っていただいた。

「こうした企画に呼んでいただくなんて畏れ多くて……。それに、本のチョイスってその人のセンスが出るじゃないですか。ちょっと緊張しますね(笑)」

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 謙虚な人柄を覗かせつつ、慣れた様子で次々に本を手に取っていく許さん。そもそも許さんは中国生まれ。日本語、英語、韓国語と合わせて4カ国語を操るが、普段はどの言語の本を読むのだろう。

「今は日本に住んでいるので、中国語の本を手に入れる機会が少なくて。なるべく日本語の本を読むようにしています。わからない言葉をすぐに調べられるよう、難しい本はKindleで読むことが多いですね。ただ、長い作品を読むのは時間がすごくかかりますし、心の準備ができていないとなかなか読めなくて。たくさん本を読んできたかと言われると、そうではないかもしれません。それでも文章を読むのは好きなので、Web上に掲載されたエッセイやインタビュー記事は積極的に読んでいます」

 普段よく読むのは、小説、エッセイ、写真集。

「本好きの方に怒られてしまうかもしれませんが、表紙のイラストやデザイン、帯に書かれたひと言で直感的に手に取ることが多いですね。映画も好きなので、気になる映画の原作小説も読みます。映画は2時間程度に収めるために内容がアレンジされることが多いですが、原作小説はより深いところまで語られているところに魅力を感じます」

 今回選んだ3冊も、まさに許さんが好きな3ジャンルからセレクト。

「普段から気になっている作家さんや写真家さんの作品、シンプルにタイトルに心惹かれたエッセイを選びました。深く考えてチョイスしたというより、気になったものを自然と手に取ったらこの3冊になりました」

曲では伝えられない思いを文章にして伝えたい

 読むだけでなく、書くことも許さんの楽しみのひとつ。中国で過ごした小学生時代は作文を習っていたそう。

「中国では割とメジャーな習い事なんです。先生がテーマをひとつ決めて、最初の1時間はそれについて学んで、残りの1時間はみんなで作文をして。国語のテストでも、最後の一問は必ず作文。100点満点のテストのうち作文が30点くらいを占めるので、受験の観点からも作文は避けられない課題でした。高校生になると、作文のテーマも抽象的で難しくなるんです。例えば、哲学的なひと言が引用されて『これについて見解を述べよ』みたいな。最初は試験対策として“正解”の作文を書こうとしていましたが、それではつまらなくなり、自分なりの意見を書くようになりました」

 さらに、小学校の時は小説を書いたこともあったそう。

「ゲームの世界みたいな、よくわからない小説を書いていました。いかにも小学生が書きそうなくだらない設定。今思うと恥ずかしいですけど(笑)」

 現在は、月に一度ファンクラブ向けのブログを執筆。この文章にも、許さんならではのこだわりがある。

「アイドルは、セルフプロデュースも大事です。ファンの皆さんとはファンクラブのメールサービスでコミュニケーションできるので、ブログではあえてエッセイ形式で僕のことを書いています。ひとりの人間として普段考えていること、仕事をする中でなにかを感じた瞬間について書くことが多いですね」

 約2000字のエッセイなら、2、3時間で書き上げるそう。

「ライブやイベントがある月は、書きやすいですね。今年1月は初めてソロステージを行ったので、頑張った分、書きやすかったです。何も思いつかない時は、季節の話や目の前にあるものについて書くことも。去年の秋はよく鴨南蛮そばを食べていたので、鴨、そば、柿でなんとなく秋っぽいエッセイを書きました(笑)。そうやってとりあえず書き始めると、どんどん言いたいことが思い浮かんでくるんです。オチを考えるのは大変ですが、ファンの方から『ブログが好き』と言っていただけることも多いので、その気持ちに応えるためにも毎月頑張って書いています」

 INIの楽曲では、作詞を担当することも。ブログとはまた違った思考回路で言葉を紡いでいる。

「グループの曲なので、自分を出し過ぎた歌詞では曲調に合わないこともあり、一番悩むのは音数ですね。例えば英語なら“I”ですむところを、日本語だと“僕”“私”とより多くの音数を必要とするので、メロディに合わせて言葉を乗せるのが難しくて。そのため、作詞では英語を使うこともあります。エッセイもそうですが、日頃から思いついたフレーズや単語をメモしておいて、そこから詞や文章を連想することが多いです」

 文章を通して許さんの内面に触れると、パフォーマンスの見え方も変わってくる。

「メンバーが作詞作曲する機会もあるとはいえ、僕らのようなアイドルは基本的に与えられた楽曲をパフォーマンスします。曲だけでは自分たちが伝えたいことを表現しきれないので、文章を通して思いを表せたらと思って。僕自身、ステージに立つアイドルを観て『パフォーマンスが素敵だな。どういう方なんだろう』と思った時に、その方が書いた文章、その方が好きな本を読んで考えや背景に触れることがあります。そうすると、パフォーマンスの見え方も変わるんですよね。同じように、僕が書いた文章を読んでいただいたうえでもう一度パフォーマンスを観ていただくと、今までとは違った一面が伝わるのではないかと思います」

 バラエティ番組などでは語りづらい社会的なテーマも、文章でなら表現できる。世の中に向けてメッセージを発信することも自身の役割だと、許さんは考える。

「ブログでは、社会問題やこの業界の問題点、世の中の偏見などについても遠慮なく書いています。『音楽やアートの世界に思想を持ち込むな』と言う人もいますが、僕は真逆の考え方。ある意味、声を上げるために今の立場にいます。まだ力不足で歌詞でメッセージを伝えることはできませんが、文章を通して声を上げ、行動していけたらと思います」

取材・文=野本由起、写真=TOWA
ヘアメイク=Sayaka(MASTER LIGHTS)、スタイリング=日夏(YKP)
衣装協力:COAT32万7000円、SHIRT13万7000円、PANTS17万3000円、BOOT22万0000円、TIE5万6000円(全てボッテガ・ヴェネタ ジャパン)
撮影協力=ブックファースト 新宿店

シュウ・フェンファン●1998年、中国生まれ。11人組グローバルボーイズグループ「INI」のメンバー。日本に興味を持ち、慶應義塾大学経済学部に入学。中国語、日本語、英語、韓国語を操るマルチリンガル。日本テレビ系『DayDay.』で、不定期レギュラーを務める。

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