「歌舞伎町で夜職をするにはあまりに無防備すぎた…」幼くあぶなっかしい夜職女性が、命を絶たれるまでの12カ月『みいちゃんと山田さん』【書評】
PR 公開日:2025/6/23

2012年の新宿・歌舞伎町。大学生兼キャバクラ嬢の山田さんの職場に、新人のみいちゃんがやってくる。やる気はあるものの、著しく常識が欠如していてトラブルばかり引き起こすみいちゃんは、すぐに店内で浮いてしまう。他の嬢たちにもバカにされる彼女に興味を抱いた山田さんは、手を差し伸べるが……。

作者の亜月ねね氏がコミック配信サイト『マガジンポケット』で連載中の『みいちゃんと山田さん』(講談社)。2010年代の歌舞伎町を舞台に、夜の世界で生きる女性たちの姿が生き生きと、かつ生々しく展開される。
特に中心となるのは、みいちゃんだ。
手書きの名刺には堂々と本名を書き、何の屈託もなくお客様に個人情報を明かしてしまう。見かねた山田さんが諭そうとすると「嘘をつくのは嫌だから!」という斜め上の反応をする始末。


用心深さが求められる夜職に就くには、あまりにも無防備であぶなっかしいみいちゃん(幼い外見がまた彼女の幼稚性を表している)。彼女は小学生でも読めるような漢字が読めず、空気も読めず、感情のコントロールができない。なので先輩キャバ嬢たちに「無能」といびられ、なぶられる存在となる。


みいちゃんとは対照的に、そつなく立ち回るキャラとしてキャスト内で地位を確立しているのが山田さんだ。彼女はみいちゃんに放っておけないものを感じ、適度な距離(と好奇心)を保ちつつ、友だちのような関係を築く。
なぜ山田さんはみいちゃんに共感したのか。それは彼女もまた親から「無能」という呪いをかけられ、苦しんでいるから。苦しむ者は苦しむ者を理解する。きっと山田さんはみいちゃんのなかに、自分を見たのだろう。
話が進むにつれ、みいちゃんの特性がだんだん浮き彫りになってくる。
おそらく彼女はなんらかの障害を抱えており、適切なケアを受ける機会がないまま成長してきたと思われる。故郷の宮城(この設定にも意味があるはずだ)から、遠く離れた歌舞伎町へと行き着いたみいちゃん。彼女のような人にとっては危険な街だ。だけど、この街に来たからこそ、山田さんと会うことができた。かけがえのない友だちと巡り会えた。

枕営業や売春行為もためらわないみいちゃんに、2巻で登場する“人間関係リセット症候群”のニナちゃんなど。社会のモラルや常識からどうしてもはみ出してしまう彼女たちを、作者はけっして裁かない。山田さん同様に程よい距離感をもって見つめ、福祉の限界や、「普通の人とは何か」といった問いを、あくまでも押しつけることなく読者に訴えかける。

最後に――このことにふれないのは書評としてフェアではないので――記しておきたい。本作は、みいちゃんが殺されるまでの12カ月を辿る物語だ。彼女が凄惨な最期を遂げるのは、第1話の時点ですでに明示されている。
山田さんとの出会いから、殺されるまでの12カ月間、みいちゃんはこの街でどのように生きたのか(そして死んだのか)。その軌跡を、山田さんと共に私たち読者は追っていく。
かわいらしい絵柄だけど内容は極めてヘヴィ。ヘヴィでせつなく、愛らしい。みいちゃんの過去を掘り下げた第3巻がまもなく発売される。ここまでこの文章を読んで、少しでも興味を引かれたならば、ぜひ手にとってみてほしい。みいちゃんという女の子がたしかに存在(い)たことを、一人でも多くの人に知ってほしい。
文=皆川ちか